ここが「死を待つ人の家」だ。
スペイン人のリーダーが指差す。
かなり広い敷地なのだが、建物内はシーンと静まり返り、物音一つしない・・・。
その理由はすぐに分かることになる。
大部屋のベッドに30人くらいの人々が寝かされている。
何の病気だろう、重度のリウマチなのだろうか、
自力で動ける人はほんのわずかで、
会話ができる人もほとんどいない、
ただうつろな目で我々を見つめているだけだ。
「さあ、患者さんたちのためにがんばるぞ」
まず患者さんたちを二人がかりで部屋の外に寝かせてあげ、ベッドを寄せて床をホウキで掃くのはいいのだが・・・。
う~んなぜなんだ、ホウキに柄がない・・・。
腰を90℃に曲げた状態でひたすら掃き続ける。
「ゴッホ、ゴッホ」舞い上がる埃をすべて吸い込む・・・。
それが終わると床の水ぶき。
だだっ広い部屋の雑巾がけは限りなくスポーツに近い。
ベッドメイクをし、患者さんをベッドに戻してやっと一部屋完了。
この工程を何部屋分も繰り返す。
2時間くらいが経過し、腰、腿(もも)、ふくらはぎが悲鳴を上げ始めた頃、ようやく全部の部屋の掃除が終わり、昼食の時間。
「あ~、お腹が空いた。メニューは何かな?」
と思うのはまだ早かった。
患者さんの昼食を介助して食べさせてあげるのが我々の次の任務。
ここはインドなので、メニューはもちろんカレー。
手が動かない患者さんのために、我々が横について
一口ずつ丁寧にスプーンで口に運ぶ。
みんな食事を楽しみにしているんだね。
さっきまでは硬く動かなかった患者さんの表情が、少しだけ柔らかくなった気がした。