三日目の夜が明けた。いや、明けてしまった・・・。
今日はいよいよ帰る日だ。いや、帰らなければならない日だ・・・。
昼過ぎに迎えに来る約束の車はちゃんと来るのだろうか。いや、来てしまうのか・・・。
すっかり愛着が湧いてしまったこのゲルでの生活も終わりに近づき、複雑な思いが芽生えてくる。
家族のみんなも最後の日を意識しているのか、昨日よりも口数が少ない。
「おい、あんた。ちょっとこれを着てみな(モンゴル語)。」
さっきから奥でごそごそと探し物をしていた父ちゃんがモンゴルの民族衣装を取り出してきた。
「これを着たら家族みんなで写真を撮ろう(モンゴル語)」
父ちゃんの言葉に少しウルッと来た。
ブルルルル~!
モンゴルの草原に似つかわしくない機械音が響く。
(ああ、迎えのクルマが来てしまった・・・)
クルマに向かう自分の足がとても重い。重たすぎる・・・。
家族のみんなも泣いている。切ない、切なすぎる・・・。
月に帰るかぐや姫も、きっと最後はこんな気持ちだったのだろう。
「さよ~なら~、みんな。もう会えないかも知れないけど、元気でな~!」
父ちゃん、母ちゃん、プルドルチュ、ドールコルスーレン、サオックスルン、バッツァンナン。みんなの姿がみるみるうちに小さくなっていく。
「最高の旅をありがとう〜!」
帰国後、たくさんの写真と日本のお菓子、それからお土産であげたシャープペンの替え芯を大量に送ったのだが、果たして届いているのだろうか。
以来、テレビでモンゴルの遊牧民の姿が映し出されると、必ず彼らの姿を探すことにしている。
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